これまでに、大気開放化で高品質の薄膜作製がおこなえる大気圧低温プラズマを用いて、酸化亜鉛薄膜が作製できることを示してきた。本研究では、この製膜方法による酸化亜鉛薄膜の作製において、原料ガスを噴き出すスリットの形状を変化させて薄膜の堆積領域や膜結晶性を調べ、製膜速度を高速化するためにはどのようなスリットの形状が良いかについて検討をおこなった。 その結果、従来のスリット(1mm×20mm)を2本に増やした場合はスリットが1本の場合と比べ堆積領域は増加するもののガスの流れが不安定となり膜の均一性が悪くなった。また、酸化亜鉛薄膜の結晶粒径が40nm以上となる総合的に見た成膜速度は約1.3倍程度に向上した。 次に、膜の均一性を保ったまま製膜領域を広げるために、形状をテーパー状にしたスリットについて検討を行った。まず、ガスの入口側のスリット幅が1mmでガスの出口側のスリット幅が1.6mmのテーパー状スリットで製膜を行った。この場合、1mm幅のスリットに比べ、薄膜の堆積幅は約1.1倍にしか広がらなかった。また、酸化亜鉛薄膜の結晶粒径が40nm以上となる総合的に見た成膜速度はほとんど変化しなかった。 さらに、ガス出口側のスリット幅を3mmまで広げたテーパー状のスリットを用いて製膜を行った。この場合は、薄膜の堆積幅は1.9倍までに増加した。さらに、酸化亜鉛薄膜の結晶粒径は、作製した製膜速度の範囲内ではどの膜でも40nm程度であり、40nmの結晶粒径を保つ製膜速度は1mm幅のスリットに比べ2倍以上となった。しかし、ガス出口側のスリット幅を広くするとできた薄膜は(002)面を向いた結晶だけでなく(101)面などの面を向いた結晶が見られるようになった。 以上より、テーパー状にしたスリットは製膜の高速化には有効な形状であることが分かった。また、配向性の良い膜を必要とする場合は、製膜条件等をさらに検討する必要がある。
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