研究概要 |
最近の急速な皮膚ガン罹患率の増加に伴い,皮下腫瘍部を非接触,簡便に可視化する手段が求められている.本研究は,分光学的手法でありながら酸素飽和度に依存せずに皮下血液領域の深さと厚みを特定し,正しい血液濃度と酸素飽和度を求めることで,生理データと形状データの両方を同時解析する生体組織の新しい光学的トポグラフィの開発を目的とした. 1.寒天にメラニン,血液,散乱媒体を混合し,厚み既知の人工皮膚ファントムを製作した.これらの各層個別の光散乱・吸収係数を現有積分球と分光器により事前に測定したのち,昨年度製作した画像化装置とソフトウェアでファントムに対する実験を行った結果,提案手法の原理を確認することができた.また,性能を評価したところ,(1)正常部メラニンならびに血液濃度の推定精度はおよそ5-10%,(2)深さ・厚みの計測精度が約200μmであった.なお,撮影・演算・表示のシステムについては最新のハードウェアによるシステム構成更新を今後考えており,評価を行わなかった. 2.正常人ボランティアの上腕,前腕,手のひらにおける静脈に本手法を適用し,深さと厚みの計測を試みた.画像感度は良好であり,血管凹凸分布の水平分解能は2mm程度であったが,深さ・厚みは分解能約200μmが確認された.また,医療応用の一例として,内出血部位に対して本手法を実施し,治癒過程における,深さと厚みの明確な変化を捉えた定量解析に成功した. 3.先行研究の血液濃度・酸素飽和度推定法を3波長の光学干渉フィルター回転機構を導入して構成し,昨年度製作した3次元形状分布画像化装置とシステム統合した.これより,3波長の画像で分光スペクトル推定を行い,血液濃度と酸素飽和度を各々擬似カラー重畳出力した上で,本手法による深さと厚みの形状画像と併せて,新設のカラーマネージメント対応型液晶ディスプレイに並列表示するソフトウェアを整備した.
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