平成17年度は、既に提案している適応観測器を用いた連続時間モデル同定の手法において、以前は連続時間フィルタとして実現されていた状態変数フィルタを離散時間フィルタとして実現する方法を中心に研究を行った。離散時間フィルタを用いる主な利点は、計算量の削減と理論的な見通しの良さである。離散時間フィルタの構成方法と計算量の削減に関しては、国際会議SICE2005において発表した。離散時間フィルタは時不変フィルタとなることから、理論的な解析の見通しが良くなり、次のことが明らかになった。 (1)サンプル点間応答の推定機構が含まれるため、状態変数フィルタの出力は擬似回帰ベクトルとなる。 (2)逐次最小2乗法を繰り返し適用する提案手法は、ブートストラップ法に対応している。 (3)擬似回帰ベクトルのPE性と状態変数フィルタの安定性の仮定のもと、ある実用的な条件下で提案手法は縮小写像となり、パラメータ推定値の極限が存在し、パラメータ推定値はその極限に指数収束する。 (4)パラメータ推定誤差の大きさの一つの上界は雑音の標準偏差に比例している。 これらの結果は、3月末にオーストラリアで開催予定のSYSID2006にて発表予定である。 さらに、パラメータ推定精度に影響する状態変数フィルタの設計に関わる事実として、雑音の誤差分散とカルマンフィルタとの関係が明らかになったので、雑音の推定方法や状態変数フィルタの設計方法として、よりシステマティックな手法が明らかになってきた。これらについては、平成18年度に順次発表していく予定である。
|