研究概要 |
本研究では,海洋短波レーダにより取得された海表面流速場を用いて,津波のリアルタイム予測法の開発を行っている.観測データの同化手法は,基本的には4次元変分法を用いて大容量の計算を行うことによりその実施が可能である.しかしながら,完全な同化結果を得るには収束演算を数十あるいは数百回程度行わなければならないので,多大な容量のメモリが必要であり計算時間がかかり過ぎるという課題があった.特に津波の予報の場合には,震源域が陸地に近かければ,5分から10分程度で海岸に来襲するため,このデータ同化手法をそのまま用いることは難しい. そこで本研究では,海洋レーダにより観測される海表面流速場を用いて,簡便なデータ同化手法により,津波のリアルタイム予報を行える方法を開発した.海洋レーダで観測される海表面流速は,連続的に観測されているため,連続した2枚の流速場を用いて水位分布を推定する方法を考案した.津波に関する連続式および2方向の運動方程式を用いて,水位変動に関する楕円方程式を誘導し,それをSOR法で解くことによりある時刻の水位分布を得ることができる.ここで問題となることは,得られる流速場の時間間隔と水位推定の精度であった.これを定量的に評価するために,数値シミュレーションを行い確認したところ,2つの瞬間的な流速場を用いた場合には10s程度以内でないと水位の推定に有意な誤差が生じることが分った.しかしながら,1分間の平均流速場を用いる場合にはその時間間隔が1分程度でも推定水位の精度が余り低下しないことが分った.このことより,海洋レーダで1分間毎に観測して,その平均流速を用いれば,実用に供することのできる精度で津波のリアルタイム予測が可能であることが確認された. さらに本手法の沿岸域での精度を検証するために,津波のリアルタイム予報を行い,沿岸で観測される水位(真値)と予測水位との比較を行った.その結果,すべての地点で相関係数が0.99以上となり,誤差の標準偏差も0.2m以下となることが示された.このことからも,本研究で開発された手法は実用に供することができるものと判断された.
|