研究概要 |
森林の洪水低減・渇水緩和機能に関係する重要な素過程の一つでありながら,まだそのメカニズムが解明されていない遮断過程のメカニズムについて樹冠多層構造を考慮した遮断タンクモデルによって,観測遮断量に対する樹冠面上での雨滴の衝突・飛散水の割合を定量評価した後,樹冠面での風の乱れによる水蒸気輸送理論を微細飛沫水滴にも応用し,飽和水蒸気圧に対する飛沫水滴分圧の割合とその影響因子について考察した. 徳島県奥野井森林試験地におけるスギ・ヒノキでの400mm程度の豪雨時でも観測遮断量(=降雨量-樹冠通過雨-樹幹流下量)は,従来の推定法(熱収支法,混合法,空気力学的方法)の何れよりも大幅に多いが,スギに対する樹冠多層タンクモデルを用いた遮断量再現計算により,樹冠遮断量の数10%程度は,水蒸気ではなく,樹冠多層構造に起因する樹冠面上での雨滴の衝突・飛散水であることを明らかにした.さらに,風の乱れによる水蒸気輸送理論(空気力学的理論)を,樹冠面で生産された飛沫水滴にも応用し,その乱流輸送量推定式を誘導した.この式により,樹冠面で生産された飛沫水滴は,風の乱れ成分によって樹冠から上空や平野部に移流されながら水蒸気化しうることを明らかにするとともに,降雨日における湿度の経時観測値(樹冠面,樹冠上空7m,平野部の3地点)で確認した.すなわち,降雨中の樹冠面は湿度はほぼ100%であるのに対して,樹冠面から離れたところ(樹冠上空7m,平野部)では湿度は常に90数%以下である.
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