研究概要 |
豪雨時の樹冠遮断量の大半は水蒸気ではなく,樹冠多層構造に起因する樹冠面上での雨滴の衝突・飛散水滴であることを前年度に明らかにしたので,本年度では,雨滴の衝突・飛散によって生成された飛沫(微細)水滴にも水蒸気同様に,空気力学的方法を適用し,樹冠遮断量に占める微細水滴量を分離するとともに,新たに指数型比湿鉛直分布を導入し,微細水滴が水蒸気に遷移する条件式を乱流輸送理論(傾度法)より誘導した. 奥野井森林試験地(徳島県吉野川市奥野井)において2004年に総降雨量が400mmを超える降雨イベント(7/30,10/19降雨)があった.両者の遮断量や気象条件はかなり異なるものの,いずれも前述の(微細水滴が水蒸気に遷移する)遮断蒸発条件を満たしている.また,10/19降雨は,樹冠遮断量Iに占める微細水滴量Swは降り始めから降雨終了まで殆ど100%で変わらないが,7/30降雨は50mmを超えてから漸増し400mで70%に達している.こうした違いは,7/30降雨は10/19降雨に比べ,気温は高く,風速も大きく,湿度も低いことに起因している.とくに,10/19降雨では降雨終了4時間前の7時間の間に272mmもの集中豪雨が発生し,この時間帯の遮断強度i(mm/h)が降雨強度r(mm/h)にほぼ比例している.しかし,このような豪雨にも関わらず樹冠上空7mでの平均湿度Rh_2は,いずれも,93.4,95.6%であり,飽和状態にはなっていないことは注目に値する.さらに,二つの降雨イベントの積算降雨量に対する4つの地方気象台(徳島市,高松市,松山市,高知市)における観測湿度の積算平均も高々80数%程度までで(前述の奥野井森林試験地における)森林湿度Rh_2より相当低く,森林から平野部風下方向への移流拡散現象として説明が可能であることが明らかとなった.
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