本年度は、現地において観測を続行すると共に、高波浪時の汀線付近のバームが急速に侵食される現象について、力学的により確かな理解と正確な侵食推定方法の確立を求めて、従来の時間スケール(1時間)よりさらに小さい、遡上波一波毎の解析と検討を行った。 データ解析の流れは以下の通りである。 1.地形変化が激しい時間帯(4hr)から、遡上の大きい時のケースを拾い出し、一波を定義する。 2.遡上前と遡上後の地形を読み取り、一遡上波による地形変化量(漂砂量)を算出する。 3.密に配置された水位/砂面計データを用いて遡上波形を算定する。得られた遡上波形から対応する遡上波を取り出し、打ち上げ時、打ち下げ時の各平均遡上速度を算出する。 4.遡上域直沖での長周期波成分を取り出す。その際、隣接する3地点の水位データを用いて(長周期波の)入・反分離を行う。ここでも定義した遡上一波に対応する波を取り出す。 なお、全てのデータがある程度の精度で揃うものは16ケースである。 この結果を用いて、遡上一波ごとの関係を検討し、以下のような結論を得た。 1.遡上域の地形変化はほぼ一様に上昇/下降を示す。 2.遡上域全体の地形変化量(すなわち遡上域沖端での体積漂砂量)は遡上波の打ち上げ時と打ち下げ時の平均シールズ数の1.5乗と作用時間の積の差と正の比例関係にある。このことは遡上波の前傾度が強いほど岸向き流速が大きくなって堆積傾向となることを意味する。 3.遡上波と遡上域沖端での波浪中の長周期入射波成分との対応は非常に良く、周期、波形の前傾度はほぼ一致する。ただし遡上の全振幅は重複波としての長周期波の腹に進行波としての短周期成分が乗ったものなる。 4.以上より遡上域直沖側の波浪条件と遡上域の勾配から遡上域の地形変化量が推定できる。
|