研究概要 |
本年度は,下水と河川水に関する調査を行った。 下水については,東京都心部を集水域とする下水処理場の流入下水を4Lずつ年12回採取し,クリプトスポリジウムのオーシストを原則としてすべて,マイクロマニュピレータを用いて1個ずつ分離した。2〜9月採水分(計8回採水分)の分離オーシスト118個のうち63個でSemi-Nested PCRにより目的のバンドが得られ,そのうち47個でシーケンスに成功した。遺伝子型の内訳はGenotype 1が40個,Isolated from humanが3個,genotype 2が1個,C.meleagridisが3個で,すべてヒトへの感染が生じうるtypeであった。この結果は,下水から検出されるクリプトスポリジウムオーシストのほとんどがヒトにのみ感染しうると考えられているgenotype 1であり,下水では動物由来のオーシストは極めて稀と考えられることを示唆している。また,発症のピーク時にある患者からのオーシスト排出量を10^9個/(人・日)と仮定して,クリプトスポリジウムの濃度から罹患率を逆推定すると,おおむね10万人に1人程度のオーダーでクリプトスポリジウム患者が存在するレベルにあると推測された。 河川水については11月に1回,水道用原水として取水されている相模川の河川水約200Lを採取してクリプトスポリジウムを分離し,下水の場合と同様,Semi-Nested PCRダイレクトシーケンス法を用いて遺伝子解析を行った。200Lから単離できたオーシストは32個で,そのうちPCRにより増幅できたのは16個,シーケンスに成功したのはわずか5個であった。5個の遺伝子型はすべてpig genotype 1であり,養豚場からの排水が主要なクリプトスポリジウム汚染源である可能性が高いことが示唆された。
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