研究概要 |
本研究では,熱と物質の複合移動に関する多成分達成系の数理モデルを構築し,それを建築の熱・物質移動現象の解明に応用した(熱移動と物質移動を連成させた室内環境の解析ツールを開発した)。得られた主な知見を以下に記す。 非平衡熱力学を基に,物理吸着と化学吸着をともなう多成分連成系の熱・物質複合移動を,熱力学的平衡条件からの偏差を物質移動の駆動力とするポテンシャル系(同次元の熱エネルギーシステム)として統一的に理論体系化した。外力が働く場のエネルギー増加を応力ポテンシャルとして表現することで,物質移動の駆動力に場のエネルギー分布も含めた。また,熱移動と物質移動にともなうエントロピー生成(非可逆過程のエントロピー増大)およびその流束と駆動力の関係を導き,オンサーガーの相反定理を用いて熱流と物質流の拡散係数と駆動力の関係について定義した。さらに,多孔質材内の物質拡散の形態を,分子拡散,クヌーセン拡散,細孔壁の表面拡散,毛管凝縮相の移動に区分してそれぞれの拡散係数を説明し,化学ポテンシャルの勾配を駆動力とする見かけの物質伝導率を定義した。熱力学モデルは物質流の拡散係数と駆動力が単純化されるため現象を理解しやすい。 提案した熱力学モデルを使用して,建築の熱と水分と空気の連成シミュレーションソフトTHERB for HAMを開発した。汎用的な熱負荷計算ソフトでは無視することの多い壁体の吸放湿(熱・水分移動)が,室内湿度変動および顕熱・潜熱負荷に及ぼす影響について検討した。その結果,(1)THERBは室内および壁体の温湿度を精度よく予測できること,(2)吸放湿を無視する従来の簡易計算は室内湿度および潜熱負荷の誤差が大きいこと,(3)室内発湿量,暖房設定温度,表面仕上透湿係数,吸放湿材の面積・水分容量は室内湿度へ大きく影響する要因であること,(4)内装材の調湿作用は冬季暖房時の過乾燥を緩和すること,などを明らかにした。
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