本研究では、伝統的板壁構法の再評価にむけ、民家建築の一種である板倉(木造倉庫建築)のうち、山形のモミド、クラ、秋田の水板倉、対島のコヤを中心として、調査研究を行い、その結果をもとに、各種板倉構法の類型化、地域的特性と成立過程についての考察を行った。 得られた知見 1.倉の構法と立地の関係 (1)屋敷内に立地する倉は、板倉の外装が土塗りとなる。または水路による防火対策を施してある。 (2)屋敷から離れ、集落のはずれに群倉として立地する倉は、板倉のままで外装はされない。 2.倉の機能と立地について (1)倉の機能は、穀物や家財道具の収蔵が主であるが、災害時の避難小屋の役割も果たしている。 (2)屋敷から離れた立地については、この種の倉が焼畑農耕時代の作業小屋の性格を引き継ぐものであり、農地の近くに立地していたものが、稲作農耕の普及により、屋敷内での農作業にあわせて倉が敷地内に設けられるようになったという仮説が提示できる。 3.山形のモミドとコヤの構法と機能と地域的特性 (1)モミドは、自家用および地域内利用のための短期収納を目的とし、夏の高温多湿な山形盆地の気候に対応し、米の品質が低下しない籾による保存を目的としたものである。 (2)流通米は玄米を俵詰めにして出荷される。これは、温室度の変化による品質の定価が著しいので、土蔵への収納が必要であった。 (3)コヤは、このような俵貯蔵の機能にあわせて、収蔵機能と味噌や漬け物などの冬期間の保存食の収納のために、土蔵化された。 4.秋田の水板倉の構法と立地 (1)水板倉は横手盆地の奥羽山脈の山麓、伏流水に恵まれた地域のみに立地している。 (2)この地域においては、防火、防犯、および鼠害から守るために、池中央に高床としてクラをつくり、その役割を果たしていた。 (3)夏の高温多湿時においては、水上の高床であることによって、冷たい伏流水が冷却効果を果たし、床板をとりはずすことによって、さらにその効果を高めている。
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