わが国の集落では、集落内の物的・人的資源を活用した循環的な環境の形成・維持管理のシステムが有効に機能してきた。集落景観に代表されるその物的環境は、集落を取り巻く自然から得られる環境構成材料を集落のマンパワーが活用する循環型の環境維持システムが、歴史的に形成してきたものであるといえる。またこのシステムは集落内で完結的なものと旧村程度のレベルでの集落間ネットワークによるもの、あるいはもっと広い地域におけるネットワークが存在し、機能していた。ところが、現在こうしたシステムは、高齢化・過疎化などの要因で、うまく機能しなくなり、環境の悪化につながっている。本研究は、伝統的集落を対象に、集落景観を構成する要素のうち、民家当の建築物、石垣等の工作物の建設・維持と集落固有の循環型システムの関係を復元的に明らかにし、また、そのシステムの現在おかれている状況や修復可能な部分についてどのようなサポートを行うべきかを実践的に提案しようとするものである。また、集落内で完結的なシステムの維持は困難である場合が多いと想像されるが、集落間・群レベル・県レベルでの循環型のシステムへの再構築も視野に入れている。 第1年度は奈良県下の集落調査を行った。県下では、大和棟とよばれる民家が多数の残っており、集落景観を特徴づけていた。大和棟の本屋根の葺き材は小麦藁で、伝統的には水田裏作で容易に入手できるものであったが、近年は入手が困難になってきている。また、屋根葺き職人は県下山間部から招くのが普通であった。また、建物本体の普請については、多くの場合、金銭による一括請負形式が近世から一般的であった。ある程度の商品流通と職人の雇用の前提の環境維持システムが機能していたと考えられる。
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