高齢者居住施設でのQOLの保障には、衰えた身体機能を補うための環境の整備や支援に加えて、受け身ではない生活を送るための支援が強く求められている。そこで、本研究では、環境行動支援のための方法について居室内と、食事のための空間での考察を行った。 居室内では、個人の「もの」環境に着目した。居室内の「もの」の量は多くはなく、認知症の程度の軽重は「もの」の量と関係が深く、重いほど量は少ない。「もの」は、そこでの活動を支えるという役割を持ち、多くの場合、量の多さは、その場所での活動の多様性を保障する。つまり、身体機能や認知レベルに左右されない「もの」の環境の充実は、入居者の環境行動の可能性の幅を広げ、QOLの向上につなげるという支援としての意味を持つ。さらに、ADLの経時敵変化と「もの」の量の考察から、「もの」の量が健康である期間の長短に影響を与える可能性と、環境行動支援においてジェンダーを考慮すべき場面が存在する可能性が示唆された。 共用空間での生活の質について、他者との交流や、生命維持の上でも重要な「食事」に関わる空間での環境行動に着目した。食事空間での環境行動を、滞在中の立位時間、座位時間の長さから便宜的に特徴付け、ADLや施設種別による傾向の相違について考察した。食事空間での滞在時間は一般にADLの低い人が長く、そこでの行動のバリエーションはほとんど認められないという傾向が強く、受身になりがちな実態が確認される。高ADL群の場合、食事空間での居方自体の個人差が大きい。施設種別では、各入居者間の立位と座位での滞在時間のばらつきはGHの方が大きく、食事空間を中心とした過ごし方が特養より多様であることが予測できる。研究では同時に、地域での自立高齢者の健康な生活を「食」の環境行動から支援するシステム開発の手がかりとして、隣国韓国の高齢者の余暇施設である敬老堂の調査を行った。
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