本研究は、既存の従来型特別養護老人ホーム・老人保健施設の改修事業を対象として、そこに建築計画的な立場から関わって改修プランの作成に携わるとともに、その前後における入居者の生活や施設スタッフの関わり方を調査することによって、その改修プランの有効性や問題点、施設運営の変化とその意味などを明らかにすることを目的とする。さらにそれを施設にフィードバックしていくことによって、それぞれの施設の環境の質の改善に寄与することを目指している。その結果を基に、改修型のハード・ソフト両面にわたる知見を得ようとするものである。 本年度はまず、昨年に引き続き、改修によって部分的にユニットケアを導入した特別養護老人ホームを対象として調査を行った。調査対象の一つは、昨年調査を行った施設(N特養)であり、1年の期間を開けて調査を行ったことにより、ユニットケア導入直後との比較を行うことができた。もう一つはやはり1年前にユニット化改修を行った施設であるが、ユニットケア導入への経緯や、施設全体の改修による全面的なユニット化など、ユニットケア導入の仕方に違いがみられる施設(S特養)である。こうした違いが、ケアの内容や入居者の生活の実態にどのような影響を与えているのか、比較を行った。調査は、ケア方針の概要や入居者属性を運営側へのヒアリングによって確認した後、入居者の生活調査とケアスタッフの介護行為調査を実施した。 調査結果としては、N特養では昨年と本年において、ケアの内容、入居者の生活ともに大きな差異が認めがたく、単に1年間という時間の経過のみによってユニットケアが自然と醸成されるわけではないことが示唆された。一方まださまざまな課題を抱えるS特養であるが、N特養と比較して、ユニットケアの理念に近いケアが行われており、入居者もユニットリビングを中心として生き生きとした生活の様子を捉えることができた。
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