研究概要 |
本年度は東京都23区(江戸)と京都市,大阪市における寺社境内の形態的特徴と分布様態,緑地としての存在意義について研究し,以下の知見を得た。 (1)3都市の寺社境内の数密度(面積あたりの個数)を比較すると,寺院・神社いずれにおいても京都市が最も低く,大阪市の寺院が最も高い。また,寺院は神社よりも数密度が高い。 (2)大阪市は寺社境内・公園ともに面積比が小さい。また,京都市では寺社境内の面積が大きく,公園に代わりうる都市内オープンスペースとして期待できる。 (3)最近隣指標(R指標)を用いて分布パターンを判定すると,3都市・江戸期ともに寺院が凝集型で,神社がよりランダム型に近いパターンとなっている。 (4)敷地形状の複雑性を形態係数(面積と周長の二乗の比率)によって計量した結果,東京都・大阪市では神社・公園に比して寺院は複雑であるのに対し,京都では両者の関係が逆転する。 (5)境内の接道率(街路に接する敷地の長さの割合)を計量してみると,東京都と京都市では寺院よりも神社のほうが高い。すなわち,神社や公園は街路に対して開放的であるのに対し,寺院は街路からやや離れて奥まった形で配置されている。また,東京都においては神社は公園並の接道率を示し,開放性・緑視性につながる潜在的な要因となっている。 (6)東京都においては,最近隣の寺社は平均して464m以内にあり,徒歩でアクセス可能な身近な空地となっている。 (7)東京都においては,寺院境内・神社境内ともに,全体の平均よりも緑被率の高い空間である。 (8)大規模緑地にはまとまった緑を提供できるメリットがあるが,緑地に近い地域を大幅に増やすことができるという点では,小規模多数の緑地分布形態は効果的である。都市内に相当数存在する寺社境内は,小規模な緑地の多数配置に貢献しており,都市・地域の身近な緑地環境として重要な役割を担っている。
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