本研究にいう近代和風住宅とは、伝統的建築表現と技術の産物として建設された大規模住宅建築をいう。それは伝統の存続を示す存在であると同時に、社会の近代化の結実でもある。すなわち近代化によって資本を蓄積した富裕層が、自らの表現として選んだ建築形態であるという側面を持つからである。したがって、それらは近代の所産として分析されねばならない。近代和風住宅研究には、建築の様式的・技術史的分析とともに、社会史的分析が併用されなければならない所以である。 本研究はそうした視点に立って、重点的に東京近郊に建つ典型的近代和風住宅である朝倉家住宅の調査と分析を行った。しかしながらその背景には、明治大正昭和戦前を通じての和風大住宅の全体像を把握する試みがある。翻って考えるなら、わが国に西洋風建築技術と様式をもたらすうえで最大の貢献を果たしたジョサイア・コンドル自身が和風建築表現に多大の興味と関心を寄せていたことは、和風を近代の表現として捉えることが必要であることを教えてくれる。 さらには近代和風住宅は都市内に良好な立地と敷地面積をもって存在する場合が大半であり、それらのもつ都市的資産価値の分析も必要となる。それはまた、社会史的分析の対象となる要素である朝倉家の場合、この敷地の周辺にはヒルサイド・テラスという新しい再開発がなされた。それはこの住宅を成立させた社会基盤と無縁ではない。 本研究はそのような問題意識と手法の広がりをもって遂行された。
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