本研究は、わが国の住宅地開発において、宗教施設がどのように介在したのかを歴史的に明らかにすることであるが、本年はそのことを明らかにするための前提として、わが国の宗教団体が、近代以降に、どのように郊外地に活動を広げていったのかを、既存の宗教史関連の研究から整理することを試みた。 その結果、最も重要な事例として北海道の開拓が浮かび上がった。ここでは、仏教、キリスト教ともに、さまざまな形で宗教施設が開拓地の発展に寄与している。仏教では、この研究の契機となった筆者による論文(平成12年)で、積極的な動きを見せた日蓮宗(身延山久遠寺)が、やはり「開拓地伝道」として、最も目立った動きを見せている。また、キリスト教でも、浦臼の聖園農場、利別村のインマヌエル村、浦河の赤心社など、キリスト教徒を指導者とする開拓事業が数多く存在することが明らかになった。ただし、こうした事例は、日蓮宗による「宗教移民」に典型的に見られるように、開拓と宗教活動が一体化したものが多く、本研究が目指す一般の住宅地開発での宗教活動の解明にはあまり参考にならないケースも多い。 しかし、大都市周辺での新たな市街地発展にあわせて寺院や教会が設置されるケースも、資料は少ないが、数多く存在することもわかった。浄土真宗(大谷派)による東瀬棚村での東照寺などがその典型である。この村では、昭和7年に瀬棚線の開通で市街化が急速に進んだが、当時の村長が真宗信者であり率先して昭和8年に同寺を設立している。こうした例は、他にも散見できるため、そのデータを現在整理中である。 北海道以外の地域でも、同様の事例があることを確認しているが、特にキリスト教(プロテスタント)による農村教会が、明治末から廃れ、サラリーマン層を支持者とする教会へと変貌する過程を知ることができたことは大きな収穫だった。その過程こそが、本研究が解明を目指す住宅地開発での宗教施設の原型を作ったと考えられ、農村教会が多く分布した千葉県、群馬県、岡山県での事例収集を来年度は精力的に行う計画である。
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