当該研究は、中世後期のイタリアの各地方都市(フィレンツェ・シエナ・ヴィテルボ・ローマなど)にける街路の公的都市規制と、それに伴う都市住宅・都市景観の様態変化を把握するために、(a)中世後期の市民生活形態、(b)街路を構成する建築の建設過程、(c)中世後期の都市条例statuti、(d)中世後期の政治体制を調査し、これらの分析を並列的に進めていくことで、イタリアの都市の街路における公道と私道の成立の実態、それに面する邸宅に関する法的規制の歴史的経緯を把握することによって、イタリア中世の都市生活の様態に新しい知見を見出そうと試みたものである。 平成16年度から平成18年度にかけて、(1)イタリア中世後期の都市条例、(2)街路に面する景観整備のための建築規制、(3)統一的美観の成立:建築ファサードにおけるラスティケーションの導入、(4)街路環境整備のための道路監督官制度、(5)街路に面する住居建築のパラダイムの変容、を順を追って分析・考察することで、イタリア中世後期における都市景観に対する法的整備の様態を解明した。 イタリアでは14世紀初頭には、我が国で言うところのいわゆる「景観法」がすでに成立しており、統一的都市景観という意識が個人都市住宅の設計理念に組み込まれていたことを垣間見ることができた。 中世都市国家の中で法的整備がなされ、かつその当時の都市条例が現存する都市に分析対象が絞られたが、中世イタリアの都市国家における都市景観に対する考え方の相貌は把握できたと考える。
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