研究概要 |
低濃度のイットリア(1.5〜1.9mol%)を含むジルコニアは急冷により正方晶を室温まで持ち来すことができる.この正方晶相は極めて不安定で,200〜300℃に加熱すると等温変態により単斜晶相へ変態し,サブゼロ冷却するとバースト的に単斜晶相へ変態するという二面性を持っている.いずれの変態による生成物も結晶学的には同一の単斜晶相と考えられるが,生成する環境が異なるのでマルテンサイトの形態も異なる可能性がある.本研究ではこれらの等温および非等温的(バースト的)に生成したマルテンサイトの形態を結晶学的な観点から明らかにすることを目的としている. マルテンサイトの形態観察を容易にするため,ZrO_2-1.9mol%Y_2O_3の焼結体を2000℃×100hでの大気中焼鈍により最大〜30μmの粗粒結晶とした.焼鈍後1000℃より室温まで急冷したのち研磨および熱腐食を施し初期試料とした.これらの試料を正方晶状態で予めSEM・EBSP観察により結晶粒方位を決定したのち加熱あるいはサブゼロ冷却により,それぞれ等温および非等温マルテンサイトを生成させ,形態観察および晶癖面解析を行った. 等温マルテンサイトは典型的な板状であり,非等温マルテンサイトはレンズ状およびピラミッド状の形態をとることが見いだされた.板状およびレンズ状の形態は金属材料において観察されるものと類似しているが,ピラミッド状の形態はこの材料特有の形態である.板状およびレンズ状のマルテンサイトの晶癖面について2面解析を行った結果(103)近傍であることが明らかになった.この結果は以前当研究室においてアークメルト試料に対して得られた結果と同じである.一方ピラミッドの形態は4つのバリアントによる歪み緩和形態であると推察できるが詳細については今後の課題とする.今後さらに,方位関係および形状歪み測定を行いマルテンサイトの結晶学的現象論との比較検討を行う予定である.
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