チタン合金の強度・靭性・電気抵抗等の物理的性質に影響を与えるω相変態の発現は、実用上の問題ばかりでなく変態機構解明の見地からも、多数の研究がなされている。特に、種々の相変態が実用材料の材質改善や機能開発に広く応用されている現状では、拡散型および変位型の両変態挙動を呈するω相変態機構の解明は、その信頼性向上や、さらなる応用のためにも必要な問題と考えられている。ω相変態機構のより本質的な理解には、相変態発現に関する種々の物理量の定量化が不可欠な段階となっている。 本申請による研究では、これらの要求に対する基礎データを得ることを目的として、2つの実験を行った:(1)熱力学的データを得るために、電子顕微鏡内で試料を131Kに冷却して非熱的ω相を生成させ、その非熱的ω相の逆変態挙動を、その場観察法により連続観察し、電子線照射により試料に供給されたエネルギーと変態進展の定量的考察を試みた。しかし、逆変態の機構の素過程である電子線照射による昇温に起因する拡散、照射加速拡散、照射誘起拡散、さらにこれらの複合過程が考えられので、その素過程の特定が先決であることが分かった。(2)ω相変態についての電子論的知見を得るために電子顕微鏡EELS法にとり、変態進行に伴う母相とω相の電子状態密度変化を定量的評価するデータの収集を計画したが、採用した二段時効法の時効過程において、ω相の新しい析出形態が観察された。また、これまで、β-ω-αの相変態が進行すると考えられていたが、時効条件により構造未決定相の出現があり、相変態過程を明確にすることの必要性が明らかになった。 (1)、(2)の結果より、初期の目的;ω相変態発現に関する種々の物理量の定量化のために解明しなければならない課題の存在が明らかになった。
|