研究概要 |
多くの物質は正の熱膨張を示すが、最近、米国のSleightらのグループが見いだしたZrW_2O_8は等方性固体でありながら、0.3-1050Kの広い温度範囲で負の熱膨張を示す非常に興味深い物質である。また、この物質は440K付近に体積変化を伴う秩序・無秩序型の構造相転移が存在するため、応用上のネックとなっている。本研究では負の熱膨張物質ZrW_2O_8のZr^<4+>サイトを3価のSc,Y,In(f電子を含まない)、3価のTm,Yb,Lu(f電子を含む)ならびに2価のMg,Znなどの低原子価イオンで置換することにより、置換イオンの周囲に無秩序なナノ空間を形成し、相転移温度を制御することを研究目的とする。 Zr_<1-x>M_xW_2O_<8-y>(M=Sc^<3+>,Y^<3+>,In^<3+>;Tm^<3+>,Yb^<3+>,Lu^<3+>;Mg^<2+>,Zn^<2+>など,x=0-0.2)の組成となるようにZrO_2,WO_3,M_2O_3(またはMO)を適切な割合で秤量後、得られた試料を乳鉢内で十分混合した。その後、混合物をペレットに成型し、空気中、1473Kで12時間反応させた後、液体窒素中に急冷することでZr_<1-x>M_xW_2O_<8-y>試料を合成した。合成した試料の粉末X線回折を行った結果、Sc^<3+>,Y^<3+>,In^<3+>,Tm^<3+>,Yb^<3+>,Lu^<3+>では単相試料が得られたが、Mg^<2+>,Zn^<2+>では不純物ピークが観測された。単相試料が得られたSc^<3+>,Y^<3+>,In^<3+>試料を現有の中・低温X線粉末回折装置にセットし、91から600Kの温度範囲で格子定数の温度依存を測定した。その結果、Scの4%置換で相転移温度が80Kも減少するという興味深い結果を得た。また、放射光による測定から、相転移温度と秩序配向したWO_4ユニットとの間に強い相関があることを見出した。この急激な相転移温度依存は配向無秩序なWO_4対を含むナノ空間を考えるモデルで説明できることを明らかにした。
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