【概要】純TeO2を介して融着した単一モード光ファイバに対し軸に垂直な方向に応力を掛けた状態で再加熱し、融着ガラス部を透過する光強度の時間変化を測定した。塑性変形に伴う損失低下が起こる時刻は、どの場合も300ミリ秒程度であった。このことから、光ヒューズ動作の再現性は、ガラスの粘性の温度依存性を利用して達成することはできるが、動作の高速化は困難と考えられる。 【背景】研究代表者は光ファイバ回線の途中に低軟化点ガラスを挿入し炭素含有塗料で被覆した構造が、過剰な光入力に反応して自律的に回線を切断する光ヒューズとして働くことを報告してきた。昨年度において、回線の切断に寄与しうる現象の一つである融着ガラスの結晶化は、動作の再現性に乏しいことが分かった。そこで今年度は、応力下の加熱による融着ガラスの塑性変形が、光ヒューズの反応時間にどのように寄与するのかを調査した。 【実験】炭素含有塗料を被覆せずに作製した素子に超小型加熱炉を近付け、融着ガラスの塑性変形をビデオ観察する共に、素子を通過する光強度の時間変化を1ミリ秒毎に記録した。素子内の融着ガラスの厚さは約50μmに統一した。この値は低損失な光ヒューズを作製する時の代表的な厚さである。融着ガラスの塑性変形を誘起するために、加熱前に光ファイバホルダの位置を200〜400μm程シフトさせて、僅かな応力が融着ガラス部分に加わるようにした。 【結果】加熱前の透過光強度を基準として、1%の変動が観測された時刻から99%減衰した時刻までの時間を光遮断時間と定義する。その時間は300ミリ秒±100ミリ秒程度であり、応力の大きさとの明確な相関は得られなかった。結晶化による光遮断時間が最短1秒から最長48秒まで分布したことを考慮すると、光ヒューズ動作の再現性は塑性変形による切断を導入することで大幅に向上することが分かる。しかしながら、これ以上の動作の高速化は望めないことも明らかになった。
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