ワイヤ突出し長さおよびアーク長の応答は非線形であるので、微分方程式を用いて記述することは困難である。そこで、熟練技術者の知識と経験を用いて行われた基礎実験データを用いて、ワイヤ突出し長さおよびアーク長を出力するニューラルネットワークモデルを構築する。これを行うために、平板上でパルス溶接電流を用いて、基礎実験を行った。同時に、高速度ビデオカメラを設置し、溶接電流、電圧およびワイヤ送給速度を計測した。これをニューラルネットワークの学習データとした。パルス溶接では、電流値が変化する。ワイヤ溶融は熱に比例するので、電流および電圧の実効値が関係する。そこで、パルス電流波形の各周期毎の実効値をニューラルネットワークの入力として用いた。すなわち、電極ワイヤの溶融現象は電流(陽極点の電圧降下との積の効果)、ワイヤ突出し長さ、ジュール熱(電流の2乗項)の効果、ワイヤ送給速度が影響する。これに基づき、突出し長さを推定するニューラルネットワークの学習データを構築した。サンプリング周期を10msとし、50ms間のデータを用いて、学習を行った。このため、入力層は15とし、出力層は1とした。つまり、50ms間の電流、電圧およびワイヤ送給速度から、突出し長さを推定した。また、裏当て材を用いずに、安定な裏ビード溶接を行うために、45度開先を持つ板厚12mmの母材を用いて、種々のルートギャップにおいてスイッチバック溶接の基礎実験を行った。この結果を用いて溶接溶融池が適正に制御できるように、溶接条件を適応制御した。
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