研究概要 |
将来型の宇宙輸送機は再使用型でなければならない.再使用型輸送機の実現のキーテクノロジーは軽量化と推進系である.申請者は構造軽量化の手段として膜(フィルム)によるタンクの導入を提案し,輸送機の形態に応じたいくつかの概念を考案した.本研究ではその中で最も軽量化の効果があると思われる同軸型のタンクシステムを取り上げる.同軸型のタンクの利点は酸化剤と推進剤とに比重が近い液体を採用すれば,内側タンク壁に荷重がかからないことであり,内側タンクの主たる役目としては酸化剤と推進剤が混ざり合うことを避ければよい.その軽量化効果は内側金属タンク1個分の質量に近いものとなる.そのほか,スロッシング減衰が大きい,内側タンクのスロッシング・座屈荷重が大きな問題とならないなどが期待できる.一方で,膜タンクの導入による剛性の低下に起因する構造-推進系連成振動の安定性が設計上問題となるであろうから,その動特性を実験的に取得して,動的安定性を検討することが重要である. 3年度計画の最終年度となる18年度では同軸型膜タンクシステムの縦振動試験とそれに対応する解析をおこなった.内側の膜タンクとしては剛なアクリル壁,適度に剛なカプトン膜,それに十分柔らかいポリスチレン膜を採用し,応答の時系列を解析し,固有振動特性(固有振動数,減衰比)を計測した.予測どおり柔らかい膜を使ったタンクでは十分な減衰が得られたが,そもそも内側の系と外側の系が連成して明瞭な共振現象が現れないことが実験から明らかになった.また,液体のスロッシングと同時に膜の葉状振動が生じていることが観察された.このことが減衰を大きくしている要因であろうと推察される.また,ほぼ曲げ剛性を持たないような薄い膜でさえも,固有振動数についてはほとんど低下しないことが実験的にも解析的にも確認された.これは前年度に行った横スロッシングの試験からも得られた結果である.この事実は同軸型膜タンクを採用すれば軽量化が可能となり,しかも,減衰が大幅に増加し,かつシステムとしての剛性低下はほとんどないということであり,膜タンクシステムの実用化に向けての好ましい結果が得られた.
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