本研究は、大部分が未利用である廃乾電池の焙焼材を溶射技術を用いて成膜化し、機能性皮膜としての有効利用法を検討したものである。まず初年度の研究においては、-105μmの篩い処理をした焙焼粉末を用い粉末式ガス溶射装置によって皮膜作製を行い、密着強度、走査型電子顕微鏡による観察、X線回折分析、光吸収率、電気抵抗測定などから皮膜の基礎的特性を明らかにするとともに、有効利用法として親水性皮膜としての適用を試みた。本年度の研究で得られた成果を、要約して次に示す。 1.焙焼粉末材は篩処理を施すことによって溶射用粉末材料としての利用が可能である。粉末は、5μm以下の微粒子を多く含むが、溶射性は良好であり、表面粗さ10.8μm程度の黒色の皮膜が作製できる。 2.JIS H 8661(B法)に準拠した皮膜の密着強度は50MPa以上と大きい。 3.粉末は結晶性の高いZnO、ZnMn204と少量のZnMnO3から構成されているが、溶射によって組成は変化し、粉末には認められない新しい回折線が検出された。 4.皮膜は放射率が365〜1300nmの波長域で平均87.2%、反射率から換算した吸収率が200〜800nmの波長域で93.2〜95.7%であり、光吸収性に極めて優れている。 5.皮膜の直流電気抵抗は230MΩ-cmと大きいが、電気抵抗は温度の上昇とともに小さくなり、半導体と同様の特性を示した。 6.皮膜に水滴を滴下したところ、水滴は瞬時に拡散した。高速度ビデオカメラによる観察から着滴直径が4mmになるまでの時間は10×10^<-3>s以下と、優れた親水性を示した。
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