本年度は、4価アクチノイドイオンと高分子との相互作用を記述するために、4価アクチノイドイオンのポテンシャルの開発を中心に研究を行った。相対論密度汎関数法に基づく量子化学計算により、U(IV)とNp(IV)の水和物について、その構造と結合の性質を定性的に調べた。具体的には、まず、U^<4+>イオンおよびNp^<4+>イオンがどのような配位構造を取るかを、配位子の数を8から10へと変化させて、エネルギー的な安定性から論じた。配位子の位置を変え、分子の対称性とエネルギーの相関を調べ、f電子の役割を論じた。またU^<4+>イオンとNp^<4+>イオンとで配位子との結合はどのような違いが見られるかを調べ、5f電子や6f電子の役割を論じた。さらに、Mullikenの実効電荷の解析より、アクチノイド-配位子間の電荷の分布も調べた。これにより、分子力場(MM)計算や分子動力学(MD)計算の際に必要となる元素ごとの電荷分布が与えられた。 上記の成果が得られた後、QM/MM法について理解を深め、市販の計算化学プログラムのADFやGaussian03におけるQM/MM法にアクチノイドのポテンシャルを組み込むことが可能であることの確認を行った。U(VI)イオン、U(V)イオン、Fe(III)イオン、Fe(II))イオンと400個の水分子を用いたQM/MM計算を行い、水溶液中におけるFe(II)によるU(VI)の還元反応における自由エネルギー変化を再現するに至っている。MD計算を行うまでには至っていないが、QM/MM計算におけるポテンシャルパラメータを用いることで、今後、容易にMD計算へと展開していくことが可能である。
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