研究概要 |
平成16年度には,NCBIでweb-blastを行う際にEntrezの検索オプションを利用する方法で,脳で発現する可能性を有するヒト内在性レトロウイルス関連の転写物をdbESTおよびnrの各データベースよりスクリーニングした.その結果,963個のESTと764個のmRNAが選び出され,Build35.1のゲノム配列にマップして絞り込んだところ24個のローカスが解析候補となった.同一ローカスにマップされたDatabase entryの多寡をmRNAの発現量の指標として,高い発現が期待できるローカスから優先的にRT-PCRで解析した所,1p36.13にはHUERS-P3bに属するHERV転写物が,また5p15.33にはHERVK9に属する転写物の存在が確認できた.RT-PCRには,胎児脳組織より抽出されたtotal RNAを用いた. 脳での発現が確認できた2ローカスに加え,17年度に胎盤組織での特異的発現を報告したヒト内在性レトロウイルスに関して,霊長類の進化との関連を考察する為に霊長類ゲノムDNAを用いてホストへの進入時期の検証を行った.本年度に採択された京都大学霊長類研究所共同利用研究員として愛知県犬山市の同施設に赴き,所内対応者である景山節教授の指導の元でPCRベースの実験で行った(チンパンジー・ニホンザル・アカゲザル・コモンマーモセット・フサオマキザル・ヨザル・クモザル・ギャラコを使用).その結果1p36.13のHUERS-P3bおよび5p15.33のHERVK9は共にヒトとチンパンジーでのみ増幅が得られたことから,これらはヒトが旧世界ザルと分化した後でゲノムへ進入したと考えられた.胎盤での特異的発現を示す21q22.3のHERVF(typeB)はヒトでのみ増幅され,進入時期は更に新しいと推定された.今後は増幅産物の塩基配列の比較も行うなど,更に詳細に検証する予定である.
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