花の香りは、訪花昆虫を誘引する重要な形質である。そのため多くの植物を対象に、花の香りの成分分析が行われてきている。また、訪花昆虫がどんな物質を好むのかという実験も行われている。これまでの研究では、集団間では送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。1.個体サイズ:個体サイズによって繁殖形質(花冠の大きさ等)が変化することがあるため。2.花齢:訪花要求量が変化するため。3.昼夜:送粉者が変化することがあるため。 そこで本研究では、花の香りが個体サイズ・時間(花齢・昼夜)に依存して変化するのかどうかを調査した。今回は、香りの強さに特に着目して解析を行った。 ・実験方法:ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。 1.香りの個体サイズ依存変化2.香りの時間依存変化3.送粉者の昼夜変化4.繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、種子成熟率・花粉放出率を比較) ・結果:1.個体サイズが大きいものほど花の香りは強くなる傾向にあった。2.昼に比べ夜の方が香りは強くなるが、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。3.昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。4.種子成熟率・花粉放出率共に、昼夜での違いはなかった。 今後はGC-MSを用いた香りの成分分析を行う予定である。これらの結果を統合することにより、個体サイズ・時間に依存した花の香りの適応戦略を明らかにしていきたい。
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