当該研究期間の成果は、大きく分けて生物多様性に関するマクロな視点およびミクロな視点からの研究に大別できる。前者としては、まず「被食者の対捕食者防衛の進化と捕食者の最適摂餌が1捕食者-2被食者系の個体群動態に与える影響の研究」が挙げられる。この研究により、捕食者と被食者の性質の進化的および行動的な変化が、システムの安定性と多種共存を促進することが明らかになった。また、「植食圧の下での植物の最適フェノロジーの研究」では、植食者との相互作用が植物の成長スケジュールを進化的に変化させることが明らかになった。これは種多様性の根幹をなす植物-植食者の関係を理解する上で、基本となる情報を提供するものである。 一方、ミクロな視点の取り組みとしては、「ミトコンドリアから核への遺伝子の移行に関する研究」を行なった。この研究は、真核生物の細胞内に共生したバクテリアが起源であるミトコンドリアについて、宿主の細胞との緊密な共生関係を獲得する過程について調べたものである。この研究は、生物多様性において重要な役割を持つ種間の共生関係を理解する上で、ミクロな視点から示唆を与えるものである。また、種間の相互作用とは異なるが、「半倍数性膜翅目昆虫におけるsymmetric social hybridogenesisの存続条件の研究」では、ある種のアリでカーストを決定する遺伝子について、集団内に遺伝的多型が維持され各カーストが安定的に存続するための条件を理論的に解析した。相互作用を持つ対立遺伝子の動態に関する研究は、複雑な種間相互作用の下での進化を扱う取り組みの基礎となるものである。 以上の一連の取り組みによって、生物間相互作用は固定的なものではなく、その中で生物の性質が変化し相互作用も変わりうることが示された。また、それによってシステムの特性が変化し、系の振る舞いが安定化する場合があることが明らかになった。
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