本研究では、蝶の翅の色の機能を解明するため、ミドリシジミ族を対象として(1)翅の色の分析、(2)色覚の分析、(3)行動の解析の3点から調査を進めている。その成果は2004年の鱗翅学会大会で報告した。 (1)翅の色の分析につては、オオミドリシジミ属全種を調べ、可視光域の反射はほとんど変わらないのに紫外域で大きな差が見られるケースが多く、とくに同所的近縁種で形質置換を思わせるような顕著な差の例があった。 (2)色覚の分析については、わが国に産する本族25種のうち19種を網膜電位測定法(ERG)によって調べ、全種において第一のピークが青(約460nm)という共通的特徴があり、長波長域では種間にかなりの変異のあることを明らかにした。雌雄各5個体以上調べられた5種について、統計的な種間比較を行ったところ明瞭な差が認められ、緑色系の種では長波長域での反応が低い一方、オレンジの種では長波長域での反応が高かった。これら5種について、色覚の性差を調べたところ、オレンジの性的一型の種では性差が認められなかったが、緑色の性的二型の種および黒色の性的一型の種で、性差が認められた。以上の結果は、複眼の一部を照射する従来の方法によったが、複眼全体を照らして、その種の持つ全体的な色覚の分析を現在検討している。 (3)の行動については、未だ色彩に関わる行動の解析に至っていないが、基本的な調査として、性的2型の種であるジョウザンミドリシジミの縄張行動およびミドリシジミの配偶行動についての成果をまとめた。また、メスアカミドリシジミの雄間の卍巴飛翔の解析と縄張行動については、それぞれまとめて現在投稿中である。性的一型の種の行動解析は、今年度は発生数が少なく不十分だったため来年度行なう。
|