目的:森林生態系の炭素循環における外生菌根菌の役割を高精度で定量的に評価するために、多様な樹種・樹齢の外生菌根中の共生菌バイオマスを3つの方法で定量した。 試料と方法:北海道と広島県の亜寒帯林〜暖温帯林で、針葉樹6種、広葉樹7種の実生、うち針葉樹と広葉樹それぞれ2種については40年生以上の成木の外生菌根を採取した。採取全樹種について、(1)菌根の横断切片の顕微鏡観察により菌根の横断面積にしめる菌鞘の面積割合を求めた。アカマツ成木-ヌメリイグチ菌根について、横断面積にしめる菌鞘の面積割合いを求めるのと同時に、(2)菌鞘を菌根からはぎ取り秤量することにより重量ベースの共生菌バイオマスを求めた。(3)真菌類の細胞膜に特有のエルゴステロールを定量することにより、菌根全体とコア植物組織中の菌類バイオマスを求めた。 結果:(1)菌鞘の面積割合の測定では、針葉樹と広葉樹の実生の平均値は、それぞれ23.2(重量ベースに換算すると34.6)、26.4(重量ベース、39.3)%であり、広葉樹の方が大きかった。実生と成木を比較すると、アカマツとブナでは有意差がなかったが、モミとコナラでは成木の方が実生よりも大きかった。(2)アカマツ成木-ヌメリイグチ菌根の重量ベースの菌鞘(共生菌バイオマス)の割合は、41.9%であった。(3)アカマツ成木-ヌメリイグチ菌根中のエルゴステロールの定量にもとづく結果では、菌鞘中の共生菌バイオマスは41.7%であったが、コア植物組織中に28.8%の菌類バイオマスが存在することが明らかになった。 考察と今後の課題:(1)13の樹種について、3つの方法により得られた結果は、35-40%の範囲にあり、Harley&McCready(1952)がョーロパブナ菌根で得た40%に近いことが確認された。 (2)コア植物組織中にもかなりの共生菌バイオマスの存在する可能性が示された。(3)今後、森林生態系の炭素循環における外生菌根菌の役割を定量的に評価するためには、バイオマスとともにそのターンオーバータイムを測定する必要がある。
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