一夫多妻制の配偶システムを持つ種では、高い性選択圧にさらされているため、雄の誘性的な形質と免疫能を同時に発達させる必要がある。免疫能とアンドロゲン濃度には拮抗作用がみられるため、質的に劣る雄は免疫能を保ったまま、誘引形質を維持するのが困難となるため、免疫能は暴露型ハンディキャップとなると考えられている。 霞ヶ浦湖岸に2004年に確立したオオヨシキリの標識個体群において、免疫能の高い個体が高い配偶成功を得ているかどうかを研究した。フィトヘマグルチニン(PHA)を用いて擬似免疫反応を誘発させ、個体ごとに免疫能を測定した。各個体の体重、体のコンディションと免疫能の間には相関は認められなかった。2004年は、調査地内に18雄しか定着せず一夫多妻は出現しなかったが、近接した休耕田のヨシ原が消失した2005年度には32雄が定着し、約3割にあたる10雄が一夫多妻となり、2006年には29雄中6雄が一夫多妻のステータスを得た。2004年から2006年に捕獲され、免疫能を測定した69羽のすべての成鳥個体のうち、鳥マラリアに感染していた個体は18羽で感染率は26%であり、鳥トリパノゾーマに感染していた個体は7羽でたった10%にすぎなかった。 雄の配偶ステータスに強い影響を与えている要因を明らかにするために、測定年をランダム効果とし、雄の配偶ステータスを従属変数とし、免疫能の強さ、年齢、鳥マラリア感染率、鳥トリパノゾーマ感染率、体重を独立変数として変数増減法により一般化線形混合モデル(GLMM)を構築した。その結果、雄の配偶ステータスに影響を与える要因として、雄の年齢、免疫能の強さ、年齢と免疫能の交互作用の3つの要因が効いていることが明らかになった。一夫多妻雄の免疫能が高い傾向が認められ、免疫能ハンディキャップ仮説の予測と一致していたが、年齢の効果が認められるため同一個体の反復測定により、免疫能の経年変化を明らかにする必要があることが示唆された。
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