研究概要 |
鹿児島県錦江湾に棲息するナガシメベニハゼTrimma sp.1の性転換を飼育実験により確認した.性と体サイズとの関係を調べたところ,雄が有意に大きいものの,小型雄も出現することから,本種では様々なサイズで性転換をすることが示唆された.サイズの異なる雌2尾あるいは雄2尾の組み合わせを作り飼育したところ性転換をするのは大小の個体間で有意差はなかった.これは性転換をする魚類ではこれまで知られていない現象であるが,その適応的意義については不明である. 錦江湾に棲息するオニベニハゼTrimma sp.2の性転換を飼育実験により確認した.本種は複数の雌のグループの中の1尾が性転換して雄になる.また,雄どうしを同居させると片方が雌になる.同属のオキナワベニハゼのように大型個体が雄,小型が雌とサイズによって性が決定された.これは本種がオキナワベニハゼと同様の社会構造を有していることを示唆している. ベニハゼ属10種と近縁のイレズミハゼ属4種,シマイソハゼ属2種,ヨリメハゼ属1種,クモハゼ属1種の生殖腺を組織学的に観察し,その構造を比較した.イレズミハゼ属ではこれまで報告されたベニハゼ属と同様に精巣と卵巣を同時に有していた.シマイソハゼ属,ヨリメハゼ属,クモハゼ属では雄では精巣,雌では卵巣のみが見られた.ベニハゼ属10種の内,7種では精巣と卵巣を同時に有していたが,アオギハゼとオヨギベニハゼでは雌では卵巣と精巣が,雄では精巣のみが見られた.カスリモヨウベニハゼでは雄では精巣,雌では卵巣のみであった.つまりベニハゼ属は多くの種で両方向の性転換をするが,一部では雌性先熟あるいは性転換をしない可能性がある.
|