植物の発育に必須な成長ホルモンであるジベレリン酸(GA)に注目し、このホルモンが関わる生体ネットワークの詳細を調べることにより、植物の成長を支える分子基盤を明らかにすることを目的とした。GAによる穀物種子の発芽促進作用は、発芽の初期段階に発現する転写因子であるGAMybなどの、GA初期反応遺伝子の機能を起点とする多段階の遺伝子カスケードで制御される。GAによるリアルな遺伝子制御のしくみを知るため、GA初期反応遺伝子自体の発現制御機構を調べた。その結果、初期反応遺伝子が示すGA応答性は通常の遺伝子の様にプロモーター上流域には依存せず、転写開始点近傍の調節配列や、長大な第1イントロンに存在するエンハンサー様の活性で制御されていることが分かった。これらの特徴は、ArabidopsisのAGやFLCなどの既知のクロマチン制御を受ける遺伝子と類似していたので、クロマチン動態を決定する一つの要因であるDNAのメチル化状態を調べたところ、GAMybプロモーターの限られた領域に高度なメチル化部位を検出した。更に、そのメチル化状態は、GA応答に関わる組織特異性などに付随して、発芽種子内で様々に変化していることが分かった。これらの結果は、GA初期反応遺伝子の発現がクロマチン段階での制御を受けており、GAは標的遺伝子のクロマチンに作用してその発現を促す可能性を示唆するものであった。クロマチン制御は転写調節を越える高度な遺伝子調節様式である。普段は不活性な状態にある多様なGA初期反応遺伝子が、発生や成長に併せてクロマチン構成を変化して潜在化することによりGA情報伝達系との連携を生じて、植物の生活環を多面的に支えているのであろう。
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