藻類や植物の葉緑体に存在するチラコイド膜は、光合成の初期過程の場であり、おもにタンパク質と脂質によって構築されている。脂質としては、この膜に特徴的な糖脂質とリン脂質の一種であるホスファチジルグリセロール(PG)が存在し、それらの脂質は光合成の初期過程を担っているタンパク質複合体のアセンブリーや安定化において重要な役割を担っているものと考えられる。 本研究では、ラン藻Synechocystis PCC6803の野生株およびPG合成欠損株を用いて、光合成装置のアセンブリーや安定化におけるPGの機能を解析した。両株からPSII複合体の単量体と二量体を精製し、各複合体の性質を比較したところ、変異株より精製したPSII複合体の単量体および二量体の活性は、野生株の約40%であり、野生株と変異株のいずれにおいても二量体の方が単量体に比べて約3倍の活性を有していた。タンパク質サブユニット組成を比較すると、変異株のPSII複合体からは、PsbO、PsbV、PsbUなどの表在性タンパク質が複合体から解離しており、活性低下の原因となっていることが考えられた。また、複合体から解離していたPsbOが、PGの再添加によってPSII複合体に再結合したことから、PGはPsbOの結合に重要であることが示された。さらに、in vivoでも表在性タンパク質が複合体から解離しているかどうかを検討するために、細胞レベルでの酸素発生活性の熱的安定性と暗失活について調べた。その結果、変異株の細胞では、酸素発生活性の熱的安定性が低下し、暗失活もおこることがわかった。これらの結果から、変異株においては、PG含量の低下によって表在性タンパク質がin vivoにおいてもPSII複合体から解離しており、PGが表在性タンパク質の結合という、PSII複合体の形成に必要であることが初めて明らかとなった。
|