昨年度までにミヤコグサ菌根特異的リン酸トランスポーター遺伝子LjPT3を同定し、当該遺伝子がアーバスキュラー菌根菌樹枝状体を含む皮相細胞に特異的に発現すること、遺伝子産物には確かにリン酸輸送活性があること、当該遺伝子をRNAi法でノックダウンすると宿主ミヤコグサへの菌根経由のリン酸吸収が低下するばかりでなく菌根菌の樹枝状体の数が激減することなどを明らかにした。すなわち、意外にも宿主ミヤコグサは菌根菌の働きを監視しており、能率の低い微生物は排除しようとする事を見いだした。 本年度は、上記のLjPT3ノックダウン形質転換体に菌根菌と共に根粒菌を接種して、根粒形成に対する影響を観察した。まず、LjPT3ノックダウン形質転換体に根粒菌のみを接種して無窒素培地で育てたところ、極めて健全な根粒が正常に形成された。LjPT3は根粒菌のみを接種しても発現しない遺伝子なので、それをノックダウンしても根粒形成に何の影響もおよぼさなかったと考えられる。次に、ノックダウン形質転換体に菌根菌と根粒菌を同時に接種してリン酸や窒素をごく低濃度含む培地で生育させたところ、ネクローシスを起こして死んだ根粒が多数見られた。この理由として、菌根経由のリン酸吸収が不足したためミヤコグサが菌根菌を排除したときに、根粒菌も同時に攻撃されたためであると思われた。 上記の観察は植物-微生物相互作用に新たな光を投げかけるものであり、Plant and Cell Physiology誌2006年7月号の表紙にも採りあげられた。今後は、宿主植物が如何にして共生微生物の働きを監視しているか、能率の低い共生微生物を排除する機構はどの様なものか、などを明らかにしていきたい。
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