これまで、新規に発見された脳と精巣に特異的に発現する細胞接着分子(brain-and testis-specific immunoglobulin superfamily、BT-IgSF)の受精における役割を調べてきた。これまでの研究で、この分子が精巣の中で染色体が半減した時期である円形精子細胞の時期に発現していることを明らかにした。また、BT-IgSFの細胞内、細胞外領域に対する力価の高い抗体がニワトリで作成することができた。これらの抗体を用いた精子の免疫組織化学的観察から、BT-IgSF分子は精子の成熟に伴って精子上の局在を変え、成熟精子では頭部に分布することを明らかにした。精子をCaイオノフォアA23187で処理し、先体反応を誘起させて免疫組織化学を行ったところ抗BT-IgSF抗体のシグナルは消失した。従って、BT-IgSF分子は精子先体の表面に存在することが予想される。さらに、BT-IgSF分子が卵と精子の受精に関わっているかどうかを明らかにするため、抗BT-IgSF抗体をが受精阻害を起すかどうかを調べた。ラットの卵巣から未受精卵を含む卵胞を採取し、液体培地でヒアルロニダーゼとともに培養し、顆粒層細胞を除いた後、抗BT-IgSF抗体の存在下、あるいはニワトリ血清存在下で精子を媒精し、その後の発生を調べた。ラット卵は培養液中に48時間置くと自己分割を生じるため、分割卵の計測は媒精後30時間で行った。その結果、媒精30時間後、ニワトリ血清存在下のコントロール群では卵割は平均66.3%の卵で生じたが、抗BT-IgSF抗体の存在下では卵割した卵は19.8%であった。また、精子を加えない卵では分割卵は0%であった。 以上、本研究の結果より、BT-IgSFは精巣におけるその生合成系が特異的なだけではなく、受精に必要な分子で有ることが明らかにできた。
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