研究課題
昨年度までに得られた結果は、胃上皮細胞の増殖調節にRunx3が必須の役割を果たしてことを示している。本年度は、胃上皮細胞の分化調節の解明を目的として、その機構を解明するための新たな実験系の開発を試みると共に、胃上皮細胞の分化におけるRunx3の機能について解析した。得られた結果は主に以下の2点である。(1)試験管内における胃上皮株細胞の分化:胃上皮株細胞をラット胎児消化管間充織と組み合わせて器官培養すると、培養1週間目に間充織内へ上皮細胞が侵入し、2週間目に腺管が形成され、3週間目に胃上皮特異的な表層粘液細胞が分化することが明らかになった。乳腺上皮の分化誘導に有効なコラーゲンゲルとの共培養は、胃上皮株細胞には無効であった。基底膜成分であるマトリゲルは、間充織と同様な誘導作用を示した。よって胃上皮株細胞の形態形成と細胞分化には、消化管間充織由来の基底膜成分が重要な役割を果たしていることが示された。この培養系を更に改良すれば、胃上皮細胞の分化調節機構を試験管内で解析することができるようになることが期待される。(2)Runx3のhaploinsufficiencyと胃の腸上皮化生:ヒトのRUNX2では、haploinsufficiencyによって遺伝子発現量が低下すると、鎖骨頭蓋異形成症が惹起されることが知られており、遺伝子発現量の低下が疾患を引き起こすという機構が、Runxファミリー遺伝子に共通している可能性がある。胃の腸上皮化生の形成には、Runx3の発現低下で充分なのか、それとも発現の完全な欠失が必要なのか検討するために、Runx3+/-胃上皮から細胞株を樹立し、その性質を調べた。その結果、Runx3+/-胃上皮細胞の一部は腸型細胞にも分化することが明らかになた。この結果は、Runx3の発現が低下すると、胃の腸上皮化生が形成されることを示唆している。
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