研究課題
基盤研究(C)
ヒト胃がんおよびRunx3欠損胃上皮細胞を用いた解析の結果、胃上皮細胞の増殖調節にRunx3が必須の役割を果たしていることを我々は報告した。しかし胃上皮細胞の分化調節にRunx3が果たす役割については、ヒトの腸上皮化生の解析から、その重要性が示唆されるものの、因果関係は不明である。そこで本研究では、Runx3欠損胃上皮細胞が腸型細胞へ分化する機構の解析のために、試験管内でこの細胞が腸型細胞へ分化転換する実験系の確立に力を注いだ。まずRunx3欠損胃上皮細胞を3週間程度培養し、その分化を調べた結果、マトリゲルや消化管間充織細胞と共に培養すると、胃上皮細胞は表層粘液細胞に分化することが明らかになったが、腸型細胞は観察されなかった。ヌードマウス皮下移植系では、Runx3欠損胃上皮細胞から腸型細胞への分化が観察できるのは、培養6週目以降である。そこで、胃上皮細胞の試験管内長期培養を試みた。その結果、培養条件を工夫すると、培養6週目には腸型細胞の分化が見られることが明らかになった。その後の解析の結果、培養4週目には既に、一部の胃上皮細胞は腸型細胞特有の分化形質を発現していることを見いだした。この場合、腸型細胞と胃上皮細胞は混在しており、細胞集団を作っているわけではなかった。よって、培養4週目を過ぎると、Runx3欠損胃上皮細胞の分化が不安定となり、確率論的に腸型細胞の形質を発現するようになるのではないかと推論された。本研究の結果、胃上皮細胞から腸型細胞が分化する過程を試験管内で解析することが可能となった。今後この系を用いて、胃上皮細胞が腸上皮化生を形成する機構を、詳細に解析したい。また腸上皮化生から分化型胃がんが形成されるという説が広く信じられている。この説の当否を、Runx3欠損胃上皮細胞から分化した腸型細胞の増殖能・腫瘍形成能を調べることにより、明らかにしたい。
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