研究概要 |
本研究は,数百本の機械感覚毛の感覚ニューロンから興奮性入力を受ける巨大介在ニューロンが,多数のシナプス入力から刺激方向に関する気流情報を抽出するメカニズムを明らかにすることを目的とする.本年度はまず,機械感覚ニューロンの求心性神経線維束にAM型カルシウム感受性蛍光色素を選択的に取り込ませ,最終腹部神経節内の求心性神経週末群の活動のイメージングを行った.その結果,異なる方向からの気流刺激に対して,最終腹部神経節内に方向特異的なカルシウム応答領域が観察された.すなわち機械感覚ニューロンのレベルでは,気流方向情報が神経週末群の活動の空間パターンで表現されていることが明らかになった.さらに応答画像の平均化・フィルタリング処理等を行って,刺激方向毎に求心性神経終末の興奮領域を特定し,機械感覚ニューロンの神経節内での活動パターンマップを作成した.次に,1個に巨大介在ニューロンにナトリウム塩型のカルシウム感受性色素を電気泳動的に注入し,異なる方向からの気流刺激に対する電位応答(細胞全体の応答特性)と樹状突起分枝でのカルシウム応答(入力箇所での応答特性)を解析した.その結果,それぞれの樹状突起はそのカルシウム応答において互いに異なる方向感受性を示し,さらに各分枝はその最大応答方向を表現する求心性神経終末群の活動領域パターンと空間的に重なっていた.これらの結果は,機械感覚ニューロンの活動パターンマップ内における巨大介在ニューロンの樹状突起の空間位置が,各入力箇所で抽出される方向感受性を決定することを示唆している.一方,電気応答が示す細胞全体の応答性は,各樹状突起の応答特性を推定活動電位発生箇所からの電気緊張的距離に応じて足し合わしたものよりも,狭い方向感受性を示した.おそらく抑制性入力や樹状突起の不均一な能動的膜特性が細胞全体での刺激方向情報の統合過程に関与しているとものと思われる.
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