研究概要 |
本研究は,コオロギの気流感覚系をモデルとして,カルシウムイメージングと電気生理を併用して,空気流方向に関する情報の抽出・統合過程を解析することを目的とした。平成16年度は,気流応答性機械感覚毛の求心性神経終末群の選択的カルシウムイメージングを行い,気流方向情報が神経終末群の活動の空間パターンで表現されていることを明らかにした。さらに応答画像の平均化・フィルタリング処理等を行って,刺激方向毎に求心性神経終末の興奮領域を特定し,機械感覚ニューロンの神経節内での活動パターンマップを作成した。平成17年度は,求心性神経終末と巨大介在ニューロン(GI)のカルシウム応答の同時イメージングを行い,GIの樹状突起の局所的活動の応答特性がその部位にシナプスしていると思われる求心性神経の応答特性を反映しているかどうかを調べた。さらに,樹状突起の分枝パターンと方向感受性が異なる10-2と10-3の2つのGIについて,機械感覚ニューロンからの気流方向情報の抽出アルゴリズムを比較した。その結果,10-3が各樹状突起分枝に局所的に入力する求心性神経の方向感受特性を抽出しているのに対し,10-2では樹上突起全体で神経節内全域の活動パターンとして表現されている情報を抽出していることがわかった。10-3では活動電位発生箇所(Spike-initiation zone : SIZ)から各樹状突起までの距離が異なるため,最もSIZに近い樹状突起の枝で抽出された情報が細胞全体の電位応答の方向感受性を決定する。一方,10-2の樹状突起はSIZからの距離がほぼ等しいため,樹状突起で抽出される情報はほぼ同じ重みを持って電位応答の方向感受性に反映される。従って,このような介在ニューロンの樹状突起のジオメトリによるシナプス入力の重み付けの違いが,情報の抽出アルゴリズムに影響する可能性がある。
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