研究概要 |
本研究は,昆虫の概日時計ペースメーカーニューロンのシナプス前・後要素を特定し,概日時計の入出力神経回路網の構造を明らかにすることを目的とする。本年度は,ルリキンバエを実験動物として用い,網膜外光受容器(Pt-eyelet)が概日時計ペースメーカーニューロン(PDF/LN)にシナプス結合することを証明するために,細胞内色素注入法と金コロイド標識-IgGを用いるpost-embedding免疫電顕法を併用して両要素を弁別標識し,電子顕微鏡下で両者のシナプス結合関係を調べた。 Pt-eyeletは,複眼後縁部の網膜と視葉板の間に位置し4個の光受容細胞から構成される網膜外光受容器である。Pt-eyeletにはニューロビオチンを細胞内注入し,PDF/LNは色素拡散因子(PDF)抗体を用いて標識した。Pt-eyeletの軸索は視髄前方部にある付属視髄とよばれる領域に投射する。終末部は複雑な細胞質突起を有し,隣接する終末部との嵌合がみられた。さらに,昆虫の視細胞終末部に特徴的な‘capitate junction'に類似した構造も観察された。Pt-eyelet終末部は多数の細分枝をもち,分枝末端部がシナプスボタンとなり,非標識の細繊維やPDF抗体陽性の繊維に出力シナプスを形成していた。PDF抗体陽性繊維では暗調の大型有芯小胞(径92±19.6nm,n=81)に特異的な標識がみられ,有芯小胞の開口放出を示すΩ形の細胞膜小窩も観察された。さらに,PDF抗体陽性繊維には抗体陰性の小型シナプス小胞もみられ,非標識細繊維への出力シナプス部にシナプス小胞の集合が観察された。以上の結果から,Pt-eyeletは付属視髄でPDF/LNに直接シナプス出力すること,さらに,PDF/LNは付属視髄内でPDFペプチドを放出するとともに未同定のシナプス後要素に出力シナプスを形成していることが明らかとなった。
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