研究概要 |
今年度はキイロショウジョウバエを実験動物として,概日時計ペースメーカーニューロン(PDF/LN)においてPDFと共存する神経伝達物質の検索を行うとともに,PDF/LNの出力領域である前大脳背側部におけるシナプス結合関係の解析を行った。 PDF/LNの神経繊維は,脳の側方後縁部に沿って上向し,キノコ体傘部の外側境界に沿って転回した後,前大脳側葉皮層の直下を正中方向に走向し,脳間部へ上向する内側触覚葉-脳経路(iACT)の背側部近傍に終わる。キノコ体傘部外側近傍,および,iACT背側部近傍を走行するPDF/LN繊維の微細構造を電子顕微鏡で観察した。その結果,PDF/LNはPDFを含む大型有芯小胞をexocytosisにより局所放出するとともに,PDF/LN繊維を取り囲む微小突起に対して,シナプス小胞を介しても出力していることが確認された。グルタミン酸トランスポーターGAL4系統(301OK-Gal4 X UAS-GFP)をPDF抗体で免疫染色し,GFP発現とPDF免疫活性の分布を比較したところ,付属視髄に近接するPDF/LN細胞体とその神経繊維で両者がともに検出された。このことから,PDF/LNではPDFとグルタミン酸が共発現しており,出力シナプス部にみられる小型小胞にはグルタミン酸が含まれている可能性が考えられる。また,iACT背側部近傍領域に終末するPDF/LN繊維の連続超薄切片(厚さ80nm,42枚)をもとに三次元構築をおこなったところ,PDF/LNからの出力シナプスに加え,PDF/LNへの入力シナプスも確認された。 以上の結果から,PDF/LNは前大脳背側部においてPDFの局所的放出による出力のほかに,おそらくグルタミン酸を介するシナプス出力をしていると考えられる。さらに,シナプス後要素としても未同定ニューロンからのシナプス入力を受けていることが明らかとなった。
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