研究概要 |
海藻サラダの材料として広く利用されている資源海藻種であるトサカノリのさまざまな外部形態を示す標本(枝分かれが多く,幅が狭く,伸長した薄い藻体をもつ標本,枝分かれが少なく,幅が広く,伸長した厚い藻体をもつ標本ならびに両者の中間形を示す標本)を得て,葉緑体にコードされているrbcL遺伝子の塩基配列を用いて系統解析を行った結果,種内分類群と認識すべき個体群システムの分化も複数の種を含む可能性もなく,それらは、軸の伸長と幅ならびに分枝頻度と副出枝の数に起因する同一種内の変異であることが明らかになった。今まで知られていなかった本藻の以下の特徴を明らかにした:1)四分胞子嚢始原細胞の基部と親細胞の間に壁孔連絡がある,2)配偶体は雌雄異株,3)造果枝は3細胞(時に4細胞),4)助細胞複合体が存在する,5)受精後に造果器から1本の連絡糸が形成される,ならびに6)嚢果は葉状体の縁辺以外にも時に表面や副出枝に形成され,1-7本の刺状付属物をもつ。以上のうち,四分胞子嚢始原細胞と親細胞の間の壁孔連絡の位置,助細胞複合体の存在,葉状体縁辺部に限定されない嚢果形成ならびに嚢果の刺状付属物は,本藻の他の海域の報告とは異なるもので,タイプ産地(紅海に面したイエメン)の標本との比較研究が必要になった。匍匐性の葉状体をもつことで特徴付けられるキクトサカ個体群のrbcL遺伝子の系統解析の結果,2つの異なった種を含んでいる可能性が示された。これら2種は以下の外部形態で識別しうる。一方の葉状体は不規則な裂片に分かれ,各節はさまざまな形を示すのに対して,他方の葉状体は規則的に叉状分枝し,各節は線形で,強く重なりあう。前者が真のキクトサカで,後者は新種と思われる。次年度は葉状体内部の生殖器官の比較を徹底して行う必要がある。
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