研究概要 |
本研究では、クマネズミ類19属63種についてミトコンドリアDNAおよび核遺伝子(IRBP、RAG1)の塩基配列の変異に基づき分子系統学的解析を行った。その結果、1)Rattus, Niviventer, Maxsomysで代表される3つの主系統が存在、2)スラウエシ島固有系統のMargaretamysはNiviventerグループに属する、3)Rattusグループは3つ亜系統群、(i)Rattus sensu stricto、(ii)フィリピン固有系統Rattus everetii、(iii)スラウエシ島固有系統Rattus xanthurusおよびニューギニア、オーストラリア固有系統群、で構成される、4)クマネズミRattus rattus sensu latoは複数の系統群で構成され、そのうち二つは核型変異の違いを示し、日本列島に現在混在する、という新しい知見を得ることができた。これらの結果に基づき生物地理学的観点からクマネズミ類の進化的展開について推察を行ったところ、一つの主要因は、複数の島々で形成されるSunda Shelf(スンダ陸棚)の存在と第三紀後期から第四紀における複数回の近隣大陸部との分離と融合の繰り返しであることが示唆された。このプロセスの中でクマネズミの主系統はスラウエシ島やフィリピンに到達しているが、琉球列島やニューギニアといった分布の辺縁部においてはRattusグループのみが系統の分散、定着に成功している。以上のように、本研究は進化的に短時間に驚異的な種の多様化に成功したクマネズミ類に関してその進化過程の作業仮説を提示することができた。
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