研究概要 |
以下の2テーマをとくに集中的に調査した, 1.中国山地東部における3種の地理的分化:中国山地でもっとも顕著な染色体の地理的分化がみられる兵庫・京都周辺で,アカサビザトウムシGagrellula ferruginea,ピコナミザトウムシNelima nigricoxa,オオナミザトウムシN.genufuscaの3種の染色体数を調査した。アカサビの淡路島の集団は,斑紋も核型も四国側ではなく,本州の集団に類似していた(2n=16)。兵庫県南部の2n=16集団は,西は市川と揖保川の間で2n=14に,北は,朝来市〜丹波市周辺で2n=18に,ともに交雑帯を介して置換していた。ヒコナミは丹波市付近で2n=16から2n=18に,オオナミも同地域で2n=18から2n=20に,東に向かって置換する。交雑帯の丹波市榎峠では,両種ともヘテロ接合核型個体の出現比率がHardy-Weinberg期待値よりも有意に低かった。ヘテロ接合核型個体の適応度は,鳥取県大山周辺にみられるヒコナミ交雑帯(2n=20/18,2n=18/16)のそれらよりも著しく低い。これには,丹波市付近におけるヒコナミとオオナミという酷似した2種の同所的生息が影響していると示唆された。 2.西南日本沿岸におけるヒトハリザトウムシB染色体数の地理変異:海岸性種であるヒトハリザトウムシPsathyropus tenuipesには多数のB染色体が見られるが,その数は,北海道や日本海側本州および太平洋側本州では多い(平均4-5個)が,瀬戸内海沿岸では少ない(1-2個)(Tsurusaki & Shimada 2004)。今回,九州・四国・淡路島などの11集団で調査し本種のB染色体数が,瀬戸内海沿岸のみでなく,紀伊水道・豊後水道沿岸の四国や九州でも少ないことがわかった。 これらの成果をもとに中国地方と周辺の生物地理の問題点と課題について総説にまとめた。
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