研究概要 |
島嶼域の蘚苔類の系統と種分化を解析し,それらの祖先種を探索するため,シラガゴケ科種群を中心に,日本本土,南西諸島のほか,インドネシアで試料の採取を行った. 今年度および昨年度までに得られた試料を光学顕微鏡下で比較形態学的研究を行い,外部形態による種の同定を行った.観察した試料の一部を広島大学植物標本庫(HIRO)のデータベースに登録するとともに植物標本として保管した. 試料からDNAを抽出し,ITS領域,rbcL遺伝子部分の塩基配列を決定した.これまでに得られた塩基配列をもとに系統樹を作成し,島嶼におけるシラガゴケ科蘇類を中心とする蘇苔類の種分化傾向を解明した.小笠原諸島産のムニンシラガゴケLeucobryum boninense)は,小笠原で種分化した固有種であり,東アジアに分布するオオシラガゴケと近縁であることをつきとめた.また,これまで小笠原以外からムニンシラガゴケと報告されてきた種はLeucobryum scaberulumとして独立させるべきであることが分かった.現在,これらの結果に関する論文を投稿中である. 調査の過程で南西諸島から発見した新種をフチドリコゴケ(Pachyneuropsis miyagii)として発表した(Yamaguchi 2006).本種は沖縄島の琉球石灰岩の露頭でのみ生育しており,島嶼による地理的隔離,島嶼内での地質要因によって,特殊に分化した種であることが推察された. その他,日本列島で報告されてきたツクシシラガゴケ(Leucobryum boninense)は,遺伝的にはホソバオキナゴケ(Leucobryum juniperoideum)と区別できないことを明かにした.これは,蘚苔類において遺伝的分化をともなわない表現型可塑性があることを示すものである.この結果を論文として公表した(Oguri et al. 2006).
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