研究概要 |
1.河川感潮域から合計10種のゴカイ科多毛類の生息が確認された。このうち2種は日本未記録種、1種は琉球列島を除く日本での未記録種と判断された(論文準備中)。 2.最も重要な普通種であるカワゴカイ属3種については、分類(同定の手引きとなる検索表を含む)、生活史、国内での分布などについて、これまでの知見の総まとめとなる総説論文を和文誌「化石」に発表した。 3.普通種イトメについては、Izuka(1903)のタイプ標本を探し出すことができ、また、北海道から沖縄までの日本各地の標本を検討した。その結果、それらは、すべて単一種であり、Tylorrhynchus heterochaetus Quatrefages,1865のシノニムではなく、それとは独立した東アジア固有の種T.osawai (Izuka,1903)と判断された(論文準備中)。 4.大牟田川では、生息域が重なりあう3優占種(アリアケカワゴカイ、ヤマトカワゴカイ、イトメ)について、年間を通した分布と生息環境(塩分、底質粒度)を調べ、それら3種が、ある程度すみ分けていることを明らかにした。また個体群の動態から生活史の概略をつかむことができた(論文準備中)。 5.大牟田川における大潮ごとの夜間満潮時直後の定期調査によって、アリアケカワゴカイとヤマトカワゴカイが、12月末から1月末にかけて、同時・同所的な生殖群泳を行なうことがわかった(近日中に論文をMarine Biology誌に投稿予定)。さらに、そこで得られた成熟卵と精子を用いた室内観察により、2種の発生のための最適塩分がほぼ等しいこと、比較的容易に交雑受精が起こり、少なくともその一部は正常に発生を続けることがわかった(論文をMarine Biology誌に投稿中)。これらは、近縁種の生殖隔離や種分化の機構を検討するためのきわめて重要な知見である。
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