研究概要 |
本研究は,関東地方南部から九州地方にかけて広く分布するカンアオイ属カンアオイ節諸種の地理的分化の実態と分類群相互の系統関係について,従来の形態形質の比較のみならず,最近の分子系統学的手法を取り入れて解明しようとするものである.さらに,その結果に基づいて,これら植物の日本列島における種分化のプロセスを地理的分布域と関連づけて考察しようとするものである. 今年度はまず研究対象であるカンアオイ節植物について,分類学的にいまだ課題の残る植物群があることも考慮し,分布域全体をカバーできるように,多くの集団(北陸,山陰,近畿,九州,四国地方の25集団)から,花標本試料ならびに分子系統解析に使用するための葉の試料採取を積極的に進めてきた,花標本は液浸標本として形態比較に使用した.また,葉はシリカゲルで乾燥し,DNA抽出のための試料として保存した.その後,乾燥した葉の試料よりCTAB法で全DNAを抽出し,PCR法で核DNAのITS領域を増幅した後,DNAオートシークエンサーを用いてITS1,ITS2領域の塩基配列の決定を進めてきた.その結果,形態的側面の解析より,鈴鹿山地に既存の分類群とは異なる,あらたな分類群の存在が確認されるとともに,北陸・山陰地方におけるカンアオイ節植物の集団間分化の様相が少しずつ明らかになってきた(一部論文で報告).一方,分子系統学的解析については,従来の解析結果よりITS領域が系統解析に有効であることが示唆されていたが,カンアオイ節植物群では多くの集団でITS領域に個体内多型がみられ,系統解析に難点があるため,新たな領域(具体的にはETS)の活用を探索している.次年度早々には特定領域に絞った解析ができるよう努力している.
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