研究概要 |
本研究は,ヒドロ虫類Cytaeis uchidaeにおいて位置特異的に分化している異型ポリプの分化要因と機能について立てた仮説「異型ポリプが何らかの群体防御の役割をもち,異群体との接触などの生物的環境要因が引き金となって分化する」を野外観察と室内飼育実験に基づき自然史学的に検証することを目的とする. 平成16年度は,この仮説検証のために,以下のとおり研究を実施した.なお,本年度は,気象条件等により当初予定していた地点での材料採集が困難となったため,新たな地点を探索して材料採集し,また,材料の供与を受けて研究を進めた.その結果,今回新たに館山(千葉県)と浅虫(青森県)から得られた群体においても異型ポリプが観察された.また,約60年前に三崎から採集された標本を精査し,これらの標本も異型ポリプを持っていたことが判明した.これらのことから,異型ポリプは,海洋環境の悪化など物理化学的な要因ではなく,何らかの生物的環境要因により分化することが明らかとなった. 次に,仮説検証の前提として,宿主巻貝上に棲息するヒドロ虫群体数を確認した.その結果,各巻貝上にはCytaeis uchidae 1群体しか棲息していないことが判明した.つまり,異型ポリプは,異群体(同種,他種を含む)と非接触状態であるにもかかわらず分化していることが示された.このことから異群体との持続的な接触は異型ポリプの分化に必要ないことが判明した.このことから異型ポリプの分化要因について新たに2つの仮説(1)「過去の異群体との接触の記憶が残り異型ポリプが分化し続ける.」,(2)「異群体との接触ではなく,付着基盤の巻貝からの何らかの作用により異型ポリプが分化する.」を立てて,それぞれの仮説を検証すべく,異群体間の接触実験とポリプの除去・再生実験を継続中である.なお,本研究の成果の一部は,出版公表した.
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