研究概要 |
細胞質タンパク質のシステイン残基のチオール基はサイトゾルが還元的雰囲気であるため,遊離のSH基として酵素の触媒部位や金属イオンの配位子として機能しているが,機能不明のものも多い。これまでの研究で,このSH基が分子内あるいは低分子チオール化合物と,ジスルフィド結合を形成することを明らかにした。このようなジスルフィド結合の機能をあきらかにするため,脂肪酸結合タンパク(FABP)をモデルに実験をおこなった。センチュウの9種のFABPの組換えタンパクを調製し,酸化ストレス時に生成するグルタチオン化反応を試験管内で高効率で実現するための,実験系をまず検討した。ジアミドと還元型グルタチオンの添加順序,濃度,反応時間等を詳細に検討した結果,いずれのタンパクでもほぼ完全にチオール基のグルタチオン化が可能になる条件を確立した。この方法でセンチュウのFABPをグルタチオン化し,その性質を検討した。またFABP9はグルタチオン化とともに分子内ジスルフィド結合が生成する結果を得た。脂肪酸の結合活性には大きな変化はみられないため,その機能としてはジスルフィド形成により細胞内の酸化ストレスの解消が考えられる。さらにグルタチオン化タンパクはキモトリプシンなどタンパク質分解酵素に対して高い感受性を示した。すなわち,消化開始後30分でグルタチオン化タンパクはほぼ完全に分解したが,もとのタンパクは80%以上残存していた。この様な被分解性の増大の意義として,チオール基が遊離かジスルフィド結合状態かによって,酸化ストレス時に損傷した可能性のあるタンパク質を判別して分解除去するためのシグナルとなっていることが示唆された。
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